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山口地方裁判所下関支部 平成元年(ワ)154号 判決 1993年1月26日

甲事件・乙事件原告(反訴被告)

原渕哲彦

甲事件・丙事件被告

有限会社松尾運送

乙事件被告(反訴・丙事件原告)

中国名鉄運送株式会社

主文

一  甲事件被告有限会社松尾運送及び乙事件被告中国名鉄運送株式会社は、甲事件原告乙事件原告原渕哲彦に対し、連帯して金三九万二〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年一二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  反訴事件被告原渕哲彦及び丙事件被告有限会社松尾運送は、反訴事件原告丙事件原告中国名鉄運送株式会社に対し、連帯して金一三〇万六九〇〇円及びこれに対する昭和六三年一二月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲事件原告乙事件原告原渕哲彦及び反訴事件原告丙事件原告中国名鉄運送株式会社のその余の各請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を甲事件被告丙事件被告有限会社松尾運送の負担とし、その一を乙事件被告反訴事件原告丙事件原告中国名鉄運送株式会社の負担とし、その二を甲事件原告乙事件原告反訴事件被告原渕哲彦の負担とする。

五  この判決の一、二項は、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

<甲事件>

甲事件被告有限会社松尾運送は、甲事件原告原渕哲彦に対し、金九八万円及びこれに対する昭和六三年一二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

<乙事件>

乙事件被告中国名鉄運送株式会社は、乙事件原告原渕哲彦に対し、金九八万円及びこれに対する昭和六三年一二月二六日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

<反訴事件>

反訴事件被告原渕哲彦は、反訴事件原告中国名鉄運送株式会社に対し、金一八六万七〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年一二月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

<丙事件>

丙事件被告有限会社松尾運送は、丙事件原告中国名鉄運送株式会社に対し、金一八六万七〇〇〇円及びこれに対する昭和六三年一二月二五日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、高速自動車道を走行中の車両から脱落して対向車線にまで転がつたタイヤに乗り上げて走行の自由を失いガードレール等に衝突した先行車両に後続車両が衝突した二重事故について、先行車両の所有者が、タイヤ脱落車両と後続車両の各運転者の使用者に対し不法行為(民法七一五条)に基づき車両破損の損害賠償を請求し、後続車両の所有者が、タイヤ脱落車両の運転者の使用者と先行車両の所有者(運転者)に対し不法行為(民法七一五条、七〇九条)に基づき車両破損の損害賠償を請求した事件である。

一1  昭和六三年一二月二五日午後六時五〇分ころ、山口市大字吉田中国自動車道上り四七三・一KP付近道路上で、甲事件原告乙事件原告反訴事件被告原渕哲彦(以下、単に原告原渕という)は、自己所有の普通乗用自動車(山五七ひ六八〇一、以下、原渕車という)を運転中、進路上にあつたタイヤ(以下、本件タイヤという)に乗り上げて走行の自由を失い、中央分離帯のガードレール等に衝突したところへ、後続の乙事件被告反訴事件原告丙事件原告中国名鉄運送株式会社(以下、単に被告名鉄という)所有で森田武春(以下、森田という)運転の普通貨物自動車(山口一一く四八八、以下、森田車という)が原告車に衝突した。本件タイヤは、甲事件被告丙事件被告有限会社松尾運送(以下、単に被告松尾運送という)所有で野ケ峰一博(以下、野ケ峰という)運転の大型貨物自動車(宮崎一一か六一五五、以下、野ケ峰車という)が下り対向車線を走行中、右前輪がパンクして脱落し反対車線まで転がつていつたものである(原告原渕と被告名鉄との間では争いがなく、原告原渕、被告名鉄と被告松尾運送との間では証拠(甲二の2ないし4、証人森田、原告原渕)によつて認められる)。

2  野ケ峰は、被告松尾運送の従業員であり、被告松尾運送の業務として野ケ峰車を運転していた。森田は、被告名鉄の従業員であり、被告名鉄の業務として森田車を運転していた(争いがない)。

3  原渕車は、ガードレール等への衝突と森田車の衝突で大破して修理不能となつたところ、本件事故当時の価額は九八万円である(甲一の1、2、三の1ないし7、原告原渕)。

4  森田車は、原渕車に衝突して破損し、その修理に一八六万七〇〇〇円を要した(丙一、二の1ないし15、三、四、証人田原)。

二  争点

1  原告原渕の主張

(1) 野ケ峰車は、整備不良であり、法定最高積載量(一〇㌧)を超える一一㌧の貨物を積載しており、野ケ峰は、指定最高速度(時速八〇km)を超える時速約九〇kmで走行する等の安全運転義務を怠つたため、右前輪をパンクさせて本件タイヤを脱落させた。また、野ケ峰は、本件タイヤが脱落したのであるから、直ちに、それを自ら回収するか、高速道路を管理する日本道路公団に連絡するべき義務があるのに、これを怠つた。

(2) 森田は、森田車を指定最高速度(時速八〇km)を超える時速約一〇〇kmで走行し、先行の原渕車との車間距離を十分とらず、原渕車が本件タイヤに乗り上げて片輪走行しているのを知りながら、ブレーキを踏み続けることを怠つた。

(3) 原告原渕は、時速約一〇〇kmで走行していた以外に過失はない。

2  被告名鉄の主張

(1) 原告原渕は、時速約一一〇kmの高速で走行し、前方注視を十分しなかつたために、本件タイヤを路面のオイル漏れと誤認して乗り上げを回避し得ず、ガードレール等に衝突して森田車の進路を塞いだ。

(2) 野ケ峰車は、整備不良(タイヤの空気圧不足、タイヤの損傷)であり、法定最高積載量(一〇㌧)を超える一一㌧の貨物を積載しており、野ケ峰は、指定最高速度(時速八〇km)を超える時速約九〇kmで走行したため、右前輪をパンクさせて本件タイヤを脱落させた。また、野ケ峰は、本件タイヤが脱落したのであるから、直ちに、それを自ら回収するか、高速道路を管理する日本道路公団に連絡するべき義務があるのに、これを怠つた。

(3) 森田は、走行車線を時速約一〇〇kmで走行していたところ、追越車線を走行してきた原渕車が、森田車を追い抜いた直後本件タイヤに乗り上げ、左側が浮いたような状態で走行車線に入つたため、森田は、直ちにブレーキを踏んだが、進路を塞ぐ原渕車を避け得ず衝突したもので、森田に過失はない。

3  被告松尾運送の主張

(1) 野ケ峰車に整備不良はなく、野ケ峰車が時速約九〇kmで走行し、仮に一一㌧の貨物を積載していたとしても、それがタイヤパンクの原因となることはあり得ない。

(2) 野ケ峰は、本件事故当日の午後七時二一分ころ、非常電話で日本道路公団ヘタイヤ脱落を連絡したから、タイヤ回収について過失はない。

第三争点に対する判断

一  事故の状況

第二の一の事実及び証拠(甲二の1ないし4、三の1ないし7、四の1、2、丙二の1ないし15、証人森田、証人野ケ峰、原告原渕)によれば、次の事実が認められる。

1  本件事故現場付近の状況は、別紙「交通事故発生現場見取図」(以下、単に「見取図」という)のとおりである。(なお、以下に示す<1>等の符号は、見取図に記載のそれを指す。)

2  野ケ峰車は、法定最高積載量が一〇㌧であり、タイヤは、前輪に左右各一本、後輪に左右各四本付されていた。タイヤは、約一〇万km走行して新品と交換する例であるところ、本件事故時までに約五万km走行していた。

3  野ケ峰は、高崎市で野ケ峰車に蒟蒻原料一一㌧(三〇kg入り二〇〇袋、二〇kg入り二五〇袋)を積み、熊本市まで運ぶため、本件事故当日(昭和六三年一二月二五日)、高速道路の中国自動車道(指定最高速度・時速八〇km)下り線を時速約九〇kmで走行し、午後五時過ぎころ、四七三・一KPの少し手前に達したとき、突然、野ケ峰車の右前輪タイヤが破損してパンクし、本件タイヤがホイールから脱落して中央分離帯を越え対向車線のまで転がつた。本件タイヤは、外径一m、内径五〇cmで、接地部分が九六cmにわたり破損していた。

4  野ケ峰は、右前輪がホイールのみになつたまま野ケ峰車をS7まで運転し、S8まで後退して停止した。S6からS7までと、S7からS8までの路面には、右ホイールによる線状の痕跡が印された。

5  野ケ峰は、四七三・一KPから四七三・三KPの間くらいの道路端を歩いて下り車線上で脱落したタイヤを探したが、暗くて見つからなかつたので、それ以上探すのをやめた。そして、野ケ峰車の右前輪に予備タイヤを付けようとしたが、ホイールのねじが固くてはずれないため、「下り湯田パーキングエリヤ」の電話でJAFに修理を依頼した。一時間近く待つてJAFの者が来て、修理をしているとき、日本道路公団の者が来て、どこでパンクしたのかと尋ねられて、本件事故の発生を知つた。野ケ峰は、その後(午後七時二一分)、右パーキングエリヤの非常電話で日本道路公団広島管理室へ、一〇トン車がパンクしたこと、脱落タイヤが不明であることを連絡した。

6  原告原渕は、原渕車を運転し、中国自動車道上り線の追越車線を時速一一〇kmを下らない速度で前照灯を下向きにして走行し、<1>で<ア>の森田車を追い抜き、<2>でに黒いものを発見したが、車のオイル漏れだろうと思い、そのまま進行したところ、それは路面に横たわつた本件タイヤであつたため、<3>でこれに乗り上げ、左車輪が浮いた形になつて走行の自由を失い、異状走行した後<4>で前部を中央分離帯のガードレールに衝突させ、その反動で後退する形で<5>から<6>に滑走したとき、右側運転席ドア付近に後続の森田車の右前部が原渕車に衝突し、さらに滑走して<7>に停止した。時刻は、午後六時五〇分ころであつた。

なお、原渕車の車幅は一・六三mであり、追越車線の幅は三・六mであつて、本件タイヤと中央分離帯との間には約二mの余裕があつた。

7  森田は、森田車を運転し、上り線の走行車線を時速約一〇〇kmで前照灯を下向きにして走行し、<ア>で<1>の原渕車に追い抜かれ、<イ>での黒い物体を発見(このとき原渕車は<2>)し、一瞬防水シートかと思つた直後タイヤであることが分かつたとき、原渕車が、<3>で本件タイヤに乗り上げ、左側車輪を浮かせた形で走行車線に進入し、<4>でガードレールに衝突した後<5>から<6>に滑走したとき、<エ>で<6>の原渕車に衝突し、<オ>に停止した。

8  森田は、停止後ただちに、付近の非常電話で日本道路公団広島管理室へ事故の発生を連絡し、午後七時二分、同管理室から山口県警察本部交通部高速道路交通警察隊へ事故通報がなされ、約二〇分後、道路公団の車と警察のパトロールカーが現場に到着した。

二  過失について

1  野ケ峰車の整備不良の事実を認めるに足りる証拠はなく、野ケ峰車の積載量違反、速度違反がタイヤパンクの原因と認めるに足りない。

しかし、野ケ峰は、脱落した本件タイヤが高速道路上に転がつたことが十分考えられたから、直ちにこれを自ら回収するか、それが危険であれば、非常電話で道路を管理する道路公団に通報して車両事故の防止策を求めるべきであるのに、わずかに探しただけで、本件事故発生までそれ以上のことを一切しなかつたのであるから、本件事故発生について野ケ峰に過失のあつたと言うべきである。

2  原告原渕は、前照灯を下向きにして前方視界が限定される状況下で、時速一一〇km(秒速三〇・五五m)の高速で走行したために、本件タイヤを厚みのある障害物として早期、的確に発見した回避することができなかつたのであり、このことは、本件タイヤの脱落(午後五時過ぎころ)から本件事故発生(午後六時五〇分ころ)までに一時間半以上が経過し、その間、多数の車両が現場を通過したことが推定されるところ、それらの車両は本件タイヤを回避して事故を起こさなかつたことからも明らかであるから、原告原渕に過失があつたことは明らかであり、後続車両の進路を塞ぐ結果を生じさせたのであるから、その過失は軽視できない。

3  森田は、制限速度を約二〇km毎時超過した時速約一〇〇km(秒速二七・七七m)で走行し、かつ、先行の原渕車が異状な走行をするのを認めながら適切なブレーキ操作をとらなかつた(証人森田は、ブレーキを踏み、路面に森田車のスリツプ痕があつたと供述するが、実況見分調書(甲二の3)にその記載は一切なく、事故状況についての供述も曖昧で、右供述は信用できない)のであるから、森田にも過失があつたというべきである。

三  過失相殺

1  原渕車の損害について

原渕車の損害は、野ケ峰と森田の共同不法行為によつて生じたものであるところ、双方の過失を対比すれば、原告原渕が六、野ケ峰と森田が四とするのが相当である。したがつて、原渕車の損害九八万円について、被告松尾運送と被告名鉄は、その四割の三九万二〇〇〇円の連帯支払義務を負うこととなる。

2  森田車の損害について

森田車の損害は、野ケ峰と原告原渕の共同不法行為によつて生じたものであるところ、双方の過失を対比すれば、森田が三、野ケ峰と原告原渕が七とするのが相当である。したがつて、森田車の損害一八六万七〇〇〇円について、被告松尾運送と原告原渕は、その七割の一三〇万六九〇〇円の連帯支払義務を負うこととなる。

(裁判官 仲渡衛)

別紙〔略〕

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